6月に開幕した今シーズンのFリーグ ディビジョン1は、8月初旬から10月初旬の約2カ月の中断期間を経て“二度目の開幕”を迎えると、ファン・サポーターは“待ってました”と、会場に足を運んだ。
今年で4年目を迎えるFリーグの表彰企画『ABeam AWARD』のテーマは「集客」であり、各チームはこの再開に合わせて新規、既存を含めファン・サポーターに一人でも多く来場してもらえるように試行錯誤を続けた。
11月初旬にF1、F2の全チームが中断明けに1回以上のホーム開催を終え、この期間に最も集客で成果を挙げたのがバルドラール浦安だった。10月14日、ホーム・バルドラール浦安アリーナに名古屋オーシャンズを迎えた一戦は1,511人を集め、選手の熱量と観客の興奮が入り混じる素晴らしい雰囲気のホームゲームを“演出”した。
小宮山友祐監督が指揮を執りはじめて5年目を迎える浦安は、今シーズンの開幕から破竹の5連勝で首位に立つと、11月30日の第17節終了時点でその座をキープ。ホームゲームでは9戦8勝と圧倒的な強さを誇っている。
2007年のFリーグ創設時から戦う“オリジナル8”の浦安は、「集客」をどのように捉えているのか。集客とチームの「強さ」とは、どのように関連するのか。
クラブを運営するバルドラール浦安の代表取締役・塩谷竜生氏に話を聞いた。クラブの前身「プレデター」の創設者兼初代監督にして、黎明期から競技の発展に尽力してきた人物が胸に抱く想いとは──。
インタビュー・文=本田好伸(SAL)
写真=伊藤千梅、本田好伸(SAL)
写真提供=バルドラール浦安 ©Bardral URAYASU(地域貢献活動)
※取材は2024年11月17日に実施しました
■コロナ禍以前にようやく戻ってきた
──中断明け最初のホームゲームで、浦安が最も観客動員しました。今シーズンはFリーグとしても「集客」をテーマに掲げるなかで、この成果をどのように感じていますか?
それについてはたまたま……と言うと誤解を生むかもしれないですが「タイミングが良かった」ということが一番です。我々のチームが首位に立っていて、王者・名古屋を迎えるという状況は、純粋にどのような戦いになるのか興味を抱くファン・サポーターの方が多いと思います。日程も、中断明けで「フットサルを見たい」と感じている方が多かったはずですし、10月14日が三連休の最終日だったことも大きかったと思います。
──浦安は「集客」についてどのように考えていますか?
そこは「浦安が良くなった」とは言えないかもしれません。どのクラブも集客努力をされていますし、それぞれの成果を出しているなかで、私たちのクラブも徐々に好転してきていると感じています。
状況としては、2019-2020シーズンの終盤から始まったコロナ禍と比較して、それ以前の環境に戻ってきていると言えます。浦安市サッカー協会とも協力して子どもたちがFリーグを見る機会をつくったり、プロ契約選手を中心に地元の幼稚園や保育園を定期的に回って関係性を築いたり、集客へとつなげるためのいろんな取り組みを続けてきましたが、新型コロナウイルスが蔓延した影響ですべてなくなってしまいました。
本当に集客が難しくなりましたし、2020-2021シーズン、2021-2022シーズンの無観客の状況で、みなさんの足が離れてしまいました。市協会もそうですし、地元でご支援いただいている団体、スポンサー企業さまを含め、その関係性が希薄になったことも間違いありません。無観客が終わってからもその反動は大きなものでした。
加えて浦安は、Fリーグ初年度から継続してきた取り組みが、2011年に発生した東日本大震災により大きなダメージを受けた背景もあります。そこから回復を図ってきたなかでのコロナ禍でした。
「集客」で言えば、2007年から極端に考え方が変わったことはありません。私たちにとって一番の売り物は「試合」だと考えています。ファン・サポーターはもちろんのこと、ご支援いただいている企業や団体のみなさま、市協会や行政など地元のみなさまに足を運んでもらい、チームを見てもらい、勝った負けたがあるなかでバルドラールを応援してもらおうという、当たり前のことを続けてきただけです。
今はそこに「チームが強い」ことも加わっています。昨シーズンはホームで2勝しかできませんでしたが、今シーズンは負けずに進んできました。勝った試合を観戦した後のリピート率が高くなる傾向は、昔から変わらないですね。
──コロナ禍以前から関係を築いてきたみなさんからはどんな声がありますか?
そこもやはり、チームの勝敗に連動しています。コロナ禍が落ち着いたことで、みなさん一度は足を運ぼうというマインドになってくださっています。そこで負けてしまえば「次はまた機会があったら来ますね」と言うのですが、勝利することで「次も見なきゃいけないね」と言ってくださいます。そうした相乗効果があります。
──運営方法も以前とは異なると思います。かつては2,000人以上を集客する試合もありましたが、今回は1,500人です。ただし、会場は満員に近いような空気感が流れていました。
アリーナのキャパと運営を考えての変更をしています。以前はベンチ裏にもアリーナ席を出していましたが今はそれを止めています。それなしで考えると、1,500人という数字は目標とする平均集客より多い状況だと言えます。運営を手伝ってくれている育成組織の子どもたちやビジター席のことなどを考えると、1,500人はそれなりに“カツカツ”です。
今シーズンは平均して1,200人を集客したいと考えていますが、現状は1,000人前後ですから、それを10~15%増やすためには、“入っている試合”で1,800人、“入っていない試合”で1,200人を目指さないといけません。ホームゲームを見てもらうことで、お客さまにもっと興味をもってもらったり、スポンサーさまのつながりで来てもらったりしますから、当然、ホームが満員になることはクラブにとってプラスでしかありません。
──クラブは浦安市総合体育館のネーミングライツ・パートナー契約を締結して、2019年から2029年の10年契約で「バルドラール浦安アリーナ」としてホームゲームを開催しています。クラブ名を冠したアリーナの存在も大きいでしょうか?
もちろんです。自分たちでアリーナを作るためには大きな資本が必要ですし、ハードルが高いですから、行政が管理しているアリーナに我々のクラブ名を冠することができて非常にありがたいと感じています。隣にある陸上競技場は「ブリオベッカ浦安競技場」となりましたし、フットボール系の団体がこの運動公園内で名前を冠したことは良かったです。
■クラブを持続させる運営と強化とは?
──スポーツクラブにおける「運営」と「強化」は両軸でありながら、その両立は簡単ではありません。浦安はどのように連携しているのでしょうか?
大前提として、私は「運営がしっかりしていないとクラブチームは長続きしない」と考えています。「運営がしっかりしている」とは、クラブに常勤の社員がいて、そして一般企業と同じように働けることです。私たちのクラブはまだまだな部分ありますけれども、給与や社会保険、福利厚生など、企業として当たり前の環境で仕事に従事できることは、スポーツ業界ではまだ当たり前ではないと言えそうです。あらゆる競技団体が直面する課題だとは思いますが、当たり前の運営力がないと強化に力を入れることはできないと考えています。
──スタッフの働く環境が第一にあると。
そうですね。運営の基本はスタッフの環境にあると思います。浦安の運営会社には今、スタッフ6人が働いています。このスタッフがきちんと“飯を食える”状態でなければならなくて、強化だけが先行をしてもクラブは疲弊してしまいます。加えて、うちはサテライトチームや女子、U-18、U-15など、全部で7つのカテゴリーを有していますが、それぞれのコーチングスタッフともきちんと契約して費用が発生しています。「好きでやっているのだからいくらでも働けるだろう」という環境で人は育たないと考えています。
──そうした運営力を整えた上で「強化」を考えるわけですね。
浦安はそういう環境をつくろうとしています。運営のベースがあって、強化を進める。それでいて、両者はもちろん連携していますけど、運営側があまり強化に入っていかないことも意識しています。逆も然りで、強化側が運営にはできるだけ入らない。そこは今は良いバランスが取れていると思います。
──塩谷さんが社長としてその両方を見ながらマネジメントされているのでしょうか?
組織として、本当は間をつなぐGM職を設けたいと思っています。今は自分が兼務しているので、良し悪しはあります。もちろん「決裁が早い」といったメリットも大きいですけど、GMがマネジメントしたほうが組織体制としては運用しやすいと思います。そのあたりも今後の課題として整備していかなきゃいけない部分ですね。
それと、運営と強化をつなぐ意味では、遠征に運営側の社員が帯同していますし、トレーナーの社員も現場にいます。特にトレーナーが社員でいることで、運営と競技の両面での共有ができて、齟齬がなくなっています。日中に事務所でチームの状況を共有してもらえますし、逆に運営周りのことを監督やコーチ陣とも連携できますから、大きな部分だと思います。
──地域貢献など、クラブの活動にも選手は積極的に参加されています。
幼稚園や保育園の訪問もそうですし、運動公園で開催している「あつまれ!うんどう公園」など、選手は定期的に地域活動に参加しています。これらはプロ契約の選手たちがボランティアで取り組んでいます。プロ契約選手との契約にはこうした活動への参加条項も盛り込んでいますし、週に一度のスクールコーチも担当してもらっています。選手もそれを理解して、非常に協力的に対応してくれています。
──プロ契約選手も増えてきている印象です。
そこは毎年1人ずつくらい増やしています。他にもプロとまではいかないですが、クラブのバックアップがあって契約している選手もいます。一時期的にチームが強かったとしても、きちんと契約できる体制でなければ長くは続かないと考えています。
■ガチンコの勝負のなかに非日常体験がある
──組織を支える「人」を軸に、運営も強化も徐々に環境を整えてきて今があるわけですね。
今、歯車がかみ合っていることでチームは結果を出していますし、集客も少しずつ追いついてきているところです。やはり、チームが勝っていないとお客さんは増えていきません。それに、例えばスポンサー企業の方などにも運営スタッフから「勝ったので、また来週も絶対に来てくださいね」と言いやすくなりますよね。相手からしても、なんとか行こうと思ってもらえる。
──そうした成功体験が積み重なっていく、と。
その感覚があるでしょうね。それに加えて、興行としてのスポーツは「どれくらい非日常を演出するか」が大きなテーマだと思います。ここで言う「非日常」をどう捉えるのかが、浦安というクラブが向き合う上でなにより重要な要素だと感じています。
──それはどういったことでしょうか?
それこそ、Bリーグのような派手な演出をやれるなら素晴らしいですよね。ただし、我々がそこまで潤沢に資金あるわけではないからこそ、できることを考えて頑張るしかありません。例えば、うちは女子もありますから、共同開催というのも一つの演出で、女子の試合で男子のトップチームの選手や監督がボールボーイを担当できることも、クラブとして演出できる強みです。イゴールがボールボーイをしていたり、ロドリゴがモップを持って走っていたりする光景を見ることはなかなかできないですよね。
──ピッチで写真を撮っていたら隣に石田選手と本石選手が座っていたことがありました(笑)。
そうですね。男子の試合ではいつも女子が手伝ってくれますし、選手は誰一人嫌な顔をしないで参加してくれます。そうした姿を見て選手はお互いに高め合って頑張ってくれますし、決して派手なものではないですけど、運営と競技がつながるような演出も大事にしたいと考えています。ただし、そうしたもの以上に感じてもらいたい非日常の体験があります。
──いわゆる「演出」だけではなさそうですね。
まさにそこです。言うなれば「普段、見られないような瞬間に立ち会えること」でしょうか。もちろん、試合前後の「演出」も非日常の一つではあると思います。ただしそれが過度になり過ぎると、競技がおざなりになってしまいかねない。両チームが努力してきたものをぶつけ合ってガチンコで戦うなかでの、ちょっとした“勝負のあや”は非日常体験を味わえるものだと私は思っています。「残り10秒で決勝弾」とか、そういったフットサルならではの手に汗握る瞬間も一つだと思いますよ。
だからこそホームゲームがすごく大切ですし、ホームで戦うチームは強くならないといけない。キラキラした演出ももちろんいいですけど、そこに目を向け過ぎることなく、競技が第一ですから、そこをしっかりと見せないといけません。
──浦安流のエンターテインメント、非日常とは競技の中にある、と。
それこそがやらないといけないことであって、競技としておもしろいことが一番大事です。それはスポーツで絶対に忘れてはいけない原点ですからね。そもそも、私たちがなぜフットサルをやっているかというと、この競技がおもしろいからです。
見ていておもしろいし、こんなに展開が早くて、熱いスポーツはなかなかない。他の競技ももちろんそれぞれに魅力はありますけど、私たちは純粋に好きだからやっていて、その良さを伝えていくにはやはり、競技にスポットが当たらないといけません。そのほかの部分ばかりでは、本来のスポーツがもつエンタメ性が薄れてしまうと感じています。
──塩谷さんは、黎明期から競技のおもしろさを外に届けることを続けてきました。2000年に、現在は町田で監督を務める甲斐修侍さんたちと共に民間で「スーパーリーグ」を立ち上げて、興行としてのフットサルを成立させました。
それも、新しいスポーツが出てきたタイミングでしたね。バスケットボールやバレーボール、卓球などのインドアスポーツも実業団による競技という印象が強かったですから、興行的な盛り上がりは今ほどありませんでした。そうした流れのなか「室内でサッカーをすること」が目新しく映ったと思います。メディアの方たちにも協力してもらっていろいろな情報発信ができました。
──当時、第一線で競技を盛り上げてきた方たちが今のFリーグにおけるキーマンになっています。
スーパーリーグは3シーズンと華が短かったので、みんなに「良かった」と言われますけど、やっている時は楽しかった一方で、大変でしたよ(苦笑)。でも、そういうところで頑張っていた人たちが今も残っているのはうれしいことですね。
甲斐くん始めとして、今町田の社長になっている関野(淳太)くんや、湘南の阿久津(貴志)くん(GKコーチ)、監督をしている伊久間(洋輔)くん、Y.S.C.C.横浜のコーチの前田(佳宏)くんなど、他にもいますけどみんな選手で頑張っていましたから。Fリーグを立ち上げるという時期になって、名古屋の社長の櫻井(嘉人)さんも地元の愛知で、あんなにすごいチームをつくっちゃいましたからね(笑)。
そういった時代に、みんなそれぞれの想いがあった。フットサルってこういうものだよね、と。みんなが各クラブで表現しながらクラブを築き上げていって、その歴史の先に今があるというのはおもしろいですよね。
──今、そうした時代を知らない選手やファン・サポーターの方も増えています。
例えばうちの柴山圭吾なんかもそうですけど、物心ついた時にはFリーグがあって、そうした選手が戦っています。スーパーリーグが歴史になってきたということですね。ただし、若い子にそんなことは関係ないですから。選手は今、頑張ってくれたらいいと思います。サッカーの世界でも、南米や欧州各国はその歴史の積み重ねで強くなってきましたし、サッカー日本代表もそうした積み重ねを感じられる時代に入ってきています。フットサルもそうやって歩んでいる最中ですから、階段を登っていくなかで、どのように歴史を積み重ねて、そして若い選手、新しい選手たちがまた歴史を築いていくというサイクルを続ける。それに尽きますね。
──原点である競技そのものを突き詰めて、それを見せていくことですね。
やはり、最終的に競技がおもしろくなければ、お客さまは来てくれないと思います。しかも今は「魅せる」という部分も変化しています。ワールドカップを見ても、フィジカルが抜群に上がっていますし、速い、強い、でかい。そこと戦えないと世界では勝てません。だから、技を見せ合うような時代は終わって、次のフェーズに入っていると思います。
一生懸命、毎日トレーニングをして、ガチンコで戦う勝負のおもしろさ。選手は、満員のアリーナで試合ができたらアドレナリンも出ますし、パフォーマンスも発揮できます。ですから運営側はどれだけ集客して、選手にそうした環境でプレーさせてあげられるか。競技で非日常感を演出することがスポーツの醍醐味だと信じているからこそ、運営側は地道にやるだけだと思います。
──改めて、運営と強化、競技は表裏一体のものだと痛感します。
Fリーグ実行委員会でも、中断明けのタイミングで改めてどのクラブも「ホームゲームを見直そう」と目線をそろえています。そのために、運営面で頑張ろうと。それは派手な演出のことではなく、会場の設営から当日、お客さまを迎えて、運営して、試合のキックオフ時間をオンタイムで合わせ、そのための運営マニュアルもきちんと準備して、最終的にお客さまに満足して帰ってもらう。そうやって子どもたちや親御さん、ファン・サポーター、スポンサー企業や行政の方が「また見に来たい」と思ってもらえるように。導線がしっかりしている、警備が行き届いている、誘導してもらえる、会場が適切に運営されている。そうしたホスピタリティがなければお客さまに満足してもらえないですから、そこは頑張ろうと、各クラブが改めて取り組んでいます。
──そうした運営があって、競技で非日常を味わってもらう。小宮山監督が率いる今のチームでまさに感じる部分です。
ここに辿り着くまでには、小宮山監督体制で5年を費やしていますし、昨シーズンから少しずつ歯車がかみ合い始めています。ただし、そのベースにはアルベルト・リケルやそれ以前の監督たちが試行錯誤しながら築き上げてきたものや、下部組織のスタッフとの間でつくり上げてきたものがあります。クラブが17年間の歴史で歩んできた一つの方向性の、その延長線上に小宮山の集大成のシーズンを迎えているように思います。
──Fリーグ優勝はまさに悲願ですね。
悲願ですが……今は1位でも、余裕はまったくありません。中断明けは、いい緊張感のなかで負けられない戦いを続けてきましたし、小宮山監督が常々口にしている「1試合1試合が決勝戦」でやっています。だから選手もいい状態にはあります。それでもなにが起きるかわかりません。昨シーズンも素晴らしいチームをつくった町田が、最終節で名古屋に逆転されてしまいました。今シーズンも最初から「今年はタイトルを獲りにいく」と小宮山監督も選手に話してきましたし、選手もそのためにやるべきことを意識して、目標に向かって全員で突き詰めていこうとやってきました。ただしそれでも、実際に目の前に「優勝」が見えはじめた時に、選手がどのように変化するか、チームがどのように変わるのか、それはまだわからないですけどね。
改めての話になりますけど、私たちの集客は、誰かが歌っているとか踊っているから来てもらっているわけではなく、試合を見てすごくおもしろかったと感じてもらうためのものです。だから、我々はずっとフットサルをやっているのだと思います。